1.要旨
VEA™(Value Environment Analysis/価値環境変化分析)は、既存事業・既存店舗を対象に、開業時から現在までの「価値」と「環境」の変化を構造的に捉えるための分析フレームワークである。事業者側が変わっていなくても、顧客から見た相対的価値は時間とともに変化する。VEA™は、その変化を10の分析軸で観測し、「時代が変わっても残すべき普遍的な価値」と「現在の市場に適応させるべき環境変化」の2つに分離することを最終出力とする。分析の後工程として、リブランディング・商品再設計・価格見直し等の再設計に接続することを前提に設計されている。
2.背景と目的
店舗・事業は開業時の市場環境に最適化して作られる。しかし3年、5年、10年と時間が経過する中で、顧客の求める価値、価格の許容基準、支払い方法、代替手段、情報収集行動、期待水準は変化する。商品やサービスそのものが劣化していなくても「以前と同じようには選ばれない」状態が生じるのはこのためである。
既存の主要フレームワーク(3C、SWOT、Five Forces、PEST等)は、主に「現時点の断面」を分析する道具であり、「開業時と現在の間に何が変わり、何が変わっていないか」という時間軸上の変化と、その変化の価値への影響を主対象とはしていない。VEA™は、この領域を対象とするために実務の中で体系化された。
3.定義
VEA™(価値環境変化分析)とは、既存事業を取り巻く「価値」と「環境」の変化を、過去と現在の比較によって観測し、〈普遍的な価値〉と〈環境変化〉に分離するための分析フレームワークである。
VEA™は変化の列挙を目的としない。「何が変わったのか」と「何が変わっていないのか」を分けて整理し、後続の再設計の入力を作ることを目的とする。
4.フレームワークの構造
4.1 分析対象
既存事業・既存店舗。新規事業のゼロからの市場分析は主対象としない(適用範囲は第6節)。
4.2 時間軸
単純な「過去と現在」の2点ではなく、開業時(またはコンセプト設計時)・好調期・現在の3点で比較する。好調期を挟むことで、「何が機能していた時期か」と「何が失われたか」を分離できる。
4.3 10の分析軸
| 軸 | 定義 |
|---|---|
| 01 価値 VALUE | 顧客がその商品・サービスを通じて本当に得たいもの。過去と現在での変化 |
| 02 価格 PRICE | 販売価格に加え、1回あたり・月額・時間あたりの価値、他の選択肢との比較、価格許容度を含む基準の変化 |
| 03 払い方 | 一括・都度・月額・サブスクリプション・分割等、支払い方法と心理的負担の変化 |
| 04 重要度 | その商品・サービスが顧客の生活・仕事の中で占める重要度の変化 |
| 05 代替 | 同業競合に限らず、同一の欲求を別の方法で満たす選択肢の増減 |
| 06 利用行動 | 検索・予約・購入・来店・利用頻度等、顧客行動そのものの変化 |
| 07 判断基準 | 顧客が選択を決める基準の変化 |
| 08 期待水準 | 「十分」とされるサービス水準の変化。以前は十分だった対応が不便と感じられていないか |
| 09 支出配分 | 顧客の支出先の移動。支出総額の減少ではなく配分の変化として捉える |
| 10 技術・社会環境 | AI・SNS・スマートフォン・人口・所得・働き方・価値観等が顧客行動と市場に与えた影響 |
各軸の具体的な問いリスト・入力様式・数値基準は、本定義書では非公開とする(実務提供の範囲)。
4.4 出力
分析の出力は、最終的に次の2つに分離する。
- 普遍的な価値:時代や環境が変わっても顧客が根底で求め続けている価値。事業の核として保持する部分。リブランディングやコンセプト再設計においても原則として変更しない
- 環境変化:時代とともに変化したもの。現在の市場に合わせて事業を適応させる部分
すべてを変える必要はない。変わらない価値と、変えるべき環境対応を分けること——この分離がVEA™の中心命題である。
5.既存フレームワークとの位置づけ
VEA™は既存フレームワークの代替ではなく、既存事業の再設計における前段として位置づけられる。
| フレームワーク | 主な分析対象 | VEA™との関係 |
|---|---|---|
| 3C | 現時点の顧客・競合・自社 | VEA™は3Cの「断面」に時間軸(変化)を与える前段として機能する |
| SWOT | 現時点の内外環境の強み・弱み | 強み・弱みは比較対象と時点で変わる。VEA™はその「時点のずれ」を先に補正する |
| Five Forces | 業界構造・競争圧力 | VEA™の「代替」軸は業界外の代替まで対象を広げる |
| PEST | マクロ環境 | VEA™の「技術・社会環境」軸はPESTの観点を、個別事業の価値への影響として観測する |
6.適用範囲と限界
適用範囲:既存事業・既存店舗の再設計。特に、開業から年数が経過し「サービスは変わっていないのに選ばれにくくなった」状態の構造把握。
限界:VEA™は分析フレームワークであり、それ自体が施策を生成するものではない。また、商圏人口の減少など、マーケティングの範囲では解決できない環境条件も存在する。その場合、サービスの再設計や商圏の変更といった経営判断が必要であり、VEA™はその判断材料の整理までを担う。
7.用語の定義
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 価値環境 | 事業が提供する価値と、その価値の受け取られ方を規定する外部条件の総体 |
| 普遍的な価値 | 時代や環境が変わっても顧客が根底で求め続けている価値 |
| 環境変化 | 時間の経過により変化した、価値の受け取られ方を規定する条件 |
| 相対的価値 | 顧客から見た、代替手段との比較の中での事業の価値 |
8.引用・リンクについて
Re:Sol 中村憲幸「VEA™|価値環境変化分析 フレームワーク定義書」v1.0, 2026, https://re-sol.jp/vea/VEA™ および「価値環境変化分析」は Re:Sol の商標です。本定義書が示す考え方を実務の参考にすることは自由です。VEA™ の名称を掲げた分析・コンサルティング等の提供は、Re:Sol の許諾を必要とします。9.版情報
v1.0(初版・2026年9月1日)。本定義書は実務での適用に基づき改訂される。改訂履歴はこの節に追記する。